ポストプロダクションとは
テレビ番組、CM、映画、ネット配信などの「映像コンテンツ」制作工程は、企画・制作・撮影等を行う「プリプロダクション」と、収録した素材の加工や仕上げを行う「ポストプロダクション」とに分類されます。ポストプロダクション(略称:ポスプロ)とは、映像制作における「撮影後の技術的仕上げ作業の総称」であり、かつ「コンテンツ制作を技術面からサポートする業種(会社)」を指す名称でもあります。
ポストプロダクションの主な業務は、「撮影された映像素材の編集」、「カラーグレーディング」、「VFX/CG制作」(以上、映像処理)、ならびに「音楽や効果音/ナレーションなどの追加、同時録音の整音、ミックスまでを行うMA作業やサウンドデザイン」(以上、音声処理)を主とし、完成した作品を放送局やWeb配信業者などへ納品する際、定められた技術基準や規格に合った納品形態に仕上げる作業も含まれます。
デジタル技術がめざましく発展を遂げ、視聴環境の多様化や表示デバイスの普及によりコンテンツが様々なメディアへと広がる現在、それらの仕上げを行うポストプロダクション技術が幅広く必要とされています。
ポストプロダクションの職種と役割
業務種別
エディター(編集)
テレビ番組・CM・PV・映画などにおいて、映像の編集作業を担当する。制作スタッフと共に映像作品を作り出すうえで、編集だけでなく、色調整、合成、テロップ入れなど、映像にかかわる中心的な役割を担い、制作者の意図に沿った作品に仕上げていく。そのために作品の構成を熟知し、最適な映像表現を提案するクリエイターとしてのセンスだけでなく、撮影などの知識も兼ね備えることで最適なワークフローを提案し、放送基準や納品形態に求められる品質の管理を行うなど、エンジニアとしてのスキルも必要とされる。
カラリスト(カラーグレーディング)
カラリストとは、カラーグレーディングによって作品の世界観を色で表現するスペシャリストのことであり、色に対する豊富な知識と感性で作品創りに参加する。カラーコレクションが色の補正であるのに対し、カラーグレーディングは色の演出である。作品が伝えたいメッセージや情感を際立たせるカラーグレーディングは、あらゆる作品においてその必要性が高く評価され、作品の完成度を高めるうえで欠くことのできない仕事であり、近年その重要性はさらに高まっている。
CGクリエイター・VFXコンポジター
CMや特撮ドラマ、映画などにおいてCG制作やVFX(ビジュアル・エフェクト)にかかわる作業を担当する。CGクリエイターは、実際には存在しない物体や、撮影が困難な事象をCG(コンピュータグラフィックス)など最先端の技術でリアルな映像に創り上げる。VFXコンポジターは、高度な合成技術を駆使しながら実写映像とCGを融合させ、よりインパクトのある映像や全く合成と思われないような映像を効率よく仕上げていく。どちらの作業も、作品の意図に沿った柔軟なクリエイティビティが求められている。
MAミキサー
テレビ番組・CM・PVなど、すべての作品の音響にかかわる仕上げ全般を担当する。DAWやミキシングコンソールを操作しながら、セリフ・ナレーション・BGM・効果音などを映像に重ね合わせ作品を完成させていく。音響の仕上がりは、視覚との相乗効果で作品の完成度に大きく影響を与えるため、制作者のイメージ、意図を最大限表現できるよう、音量・音質・音空間の総合的なサウンドデザインやミキシング処理を施していく。チャンネルベースやイマーシブサウンドなど、制作者のリクエストに応じて映像と一体化した様々な形態の音にまとめ上げる能力が求められる。
音響効果(サウンドデザイン)
各種コンテンツで使用される音楽や音響的効果にかかわる音源制作・管理の全般を担当する。作品で用いられる音楽の選曲や効果音(SE)により視聴者が受ける心理的な印象は大きく左右される。サウンドデザインでは、日常のあらゆる音源から作品に最適な効果音を創り出すこと、また多彩なジャンルの音楽に精通してセリフやナレーション以外の全ての音源を巧みに扱うセンスが求められる。音響効果のスタッフはMA作業のほか、生放送などのスタジオ番組でも活躍している。
データ変換
ポストプロダクションにおけるデータ変換作業は、素材受け入れ時に行うものと、作品完成後に納品用として行うものに大別できる。前者では、ファイルベース撮影などの作業フローにおいて、DITなどと連携して行うデジタル現像、オフライン用ファイル変換、プレビュー用ファイル変換、オリジナルデータのバックアップなどを行う。後者では、納品先や搬入規準に沿ったファイル形式、フォーマット、納品形態に合わせた変換を行う。静止画・動画・音声をはじめとする多種多様なデータ形式を取り扱うための知識と、最終的に要求されるQC(品質管理)に応じた適切な判断が必要とされる。ポストプロダクションを取り巻く技術動向が急速に変化していく中で、確実なデータ変換は不可欠な要素であり、ますますその重要性が高まっている仕事である。
オーサリング・エンコード
オーサリングは、文字や静止画、音声、動画からなる複数のマルチメディアのデータを、編集・統合・変換を経て、DVDやBlu-ray Disc(BD)といったパッケージメディアやWEBなど、用途に応じたアプリケーションやハードの仕様に適合するマスターファイルにまとめる作業を担当する。
エンコードはオーサリングの前工程で、音声や映像素材を各種のメディア規格で許容されるビットレート(データ)の範囲内でできる限り高品質を維持しながら動画などに変換する作業を担当する。近年ではDVDのみならずストリーミングなど多くの分野で様々なエンコード方式が採用されており、メディアごとの特性や品質に精通したスタッフが求められている。
技術サポート
スタジオ内で稼動する機器(ハードウエア)やソフトウエアなどの保守・管理全般を主に担当する。日常の点検・調整・緊急時の機器トラブルの対応などのメンテナンス業務のみならず、最先端の技術動向を見据えて制作関連機材などの調査や評価、実際の作業フローに適したシステムの提案や構築を行いながらポストプロダクション業務の円滑な運用を強力にバックアップする。ハードウエアからソフトウエアまでを網羅する幅広い専門知識と、あらゆる作業実務についての迅速で的確な判断が要求される仕事である。
技術コーディネーター
仕上げ作業を中心として作品制作全体に携わり、演出家のイメージを最も効果的に具体化していく過程で技術セクションの統括的な管理を担当する。仕事の範囲は編集、特殊効果にとどまらず、撮影、CG制作など、作品の仕上げで必要となる作業全般に及んでおり、近年はデジタル技術を背景とした表現技法の多様化や制作フローの複雑化にともない非常に重要な役割を担っている。ポストプロダクションのみならず制作の上流工程とも連携しながら現場をまとめ上げていく必要性があるため、ワークフロー・制作環境・品質管理など多岐の分野に精通した幅広い知識と経験が要求される。
営業
予算に合わせたスタジオスケジュール・作業フローの提案・調整など、作業受注における総合窓口が主な仕事。ポストプロダクション業務全体を把握し、自社の強みを提案に織り交ぜることで、制作に対して効率的で円滑な運営を構築・提案する。そのため自社の技術者の能力、システム把握はもちろんのこと、業界動向や技術分野の知識も必要とされる。